基本情報
公開年: 2019
ジャンル: ドラマ, ロマンス, ファンタジー
あらすじ
セネガルの首都ダカール。高層タワーの建設現場で働くスレイマンは、恋人のアダと密かに愛を育んでいた。しかし、アダには親が決めた裕福な男性との結婚が迫っていた。さらに、スレイマンたちは数ヶ月も給料が支払われず、未来の見えない日々に絶望していた。ある日、スレイマンは仲間たちと共に、より良い生活を求めて船で海を渡ることを決意する。アダに何も告げずに旅立った彼らの船は、その後消息を絶ってしまう。恋人の突然の失踪に打ちひしがれるアダ。しかし彼女の結婚式の夜、不可解な火事が起こる。そして、街では原因不明の熱病にかかる人々が現れ始め、奇妙な出来事が次々と起こっていく。それは、海に消えたはずの彼らがもたらす、奇跡の始まりだった。

映画レビュー
社会問題を描いたリアルなドラマかと思いきや、途中から幻想的なファンタジーへと姿を変える。今回紹介する『アトランティックス』は、そんな不思議な魅力を持った映画でした。
物語の舞台は、セネガルのダカール。まず心を掴まれたのは、その映像美です。どこまでも広がる大西洋の青、街の喧騒、人々の鮮やかな衣装。そのすべてがスクリーンに詩的に映し出され、まるで自分がその場にいるかのような感覚に陥ります。特に、この物語のもう一人の主人公とも言える「海」の存在感が圧倒的でした。希望の象徴でありながら、同時に恋人を奪っていく絶望の場所でもある。その二面性が、寄せては返す波の音と共に、静かに、でも力強く描かれています。
私がこの映画で一番惹かれたのは、単なる悲恋物語で終わらないところ。恋人スレイマンを失った主人公アダは、ただ悲しみに暮れるだけの弱い女性ではありません。彼の不在と、その後に起こる超自然的な現象を通して、彼女は自分自身の足で立ち、声を上げることのできる強さを見つけていきます。これは、見捨てられた女性たちのエンパワーメントの物語でもあるんです。
後半のファンタジックな展開は、ホラーのようでありながら、とても切なくてロマンチック。愛する人のために、そして自分たちの尊厳のために、海を越えて還ってくる魂たち。その姿は、死さえも超える愛の形を描いていて、『The Tomb』のような作品が好きな人にも響くかもしれません。でも、本作のユニークさは、その愛が個人的なものに留まらず、社会への静かな怒りや正義の要求に繋がっていく点にあります。
派手な演出があるわけではないけれど、心に深く、静かに染み込んでくるような映画です。見終わった後、きっとあなたも大西洋の波音と、登場人物たちの強い眼差しを忘れられなくなるはず。ロマンスやファンタジーが好きだけど、少し大人びた深みのある作品に触れたい、そんな気分の時にぴったりの一本です。


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