1. 基本情報
今回ご紹介するのは、1929年に公開された初期のトーキー/サイレント時代のドラマ映画『Drag』です。このタイトルの持つ意味合いは、現代の「ドラァグ・クイーン」文化を連想させますが、公開された1920年代後半という時代背景を考えると、非常に挑戦的なテーマを扱っていたことがわかります。
| 公開年 | 1929年 |
|---|---|
| ジャンル | ドラマ |
| 評価 | 6.0/10.0 |
| 監督 | Frank Lloyd |
| 主演 | Richard Barthelmess |
この時代の映画で「Drag」という言葉が使われているのは、当時のボードビル(軽演劇)の世界で、男性が女性の衣装を身につける演目を指すスラングとして使われていたからです。本作は、現代のアイデンティティの探求としてのドラァグ・カルチャーの源流を垣間見せてくれる、貴重な作品と言えるでしょう。

2. あらすじ
物語の舞台はバーモント州の小さな町。若きデイヴィッド・キャロルは、亡き父の跡を継ぎ、地元の新聞社の経営を引き継ぎます。彼は町で最も洗練された女性ドットに惹かれますが、最終的には、ボードビル劇場を経営する夫婦の娘であるアリー・パーカーと結婚します。
アリーの両親が経営する劇場は、異性装(Drag)のパフォーマンスを含むボードビルが人気の場所でした。デイヴィッドは当初、田舎の生活や妻の家族の軽薄な職業に馴染めずにいましたが、やがて彼は妻の才能や、劇場という場所が持つ自由な雰囲気に惹かれていきます。
しかし、都会的な魅力を持つドットの存在、そして彼自身の野心が、デイヴィッドとアリーの関係に影を落とします。特に、アリーがボードビルで成功を収め始めると、二人の道はますます離れていくように見えます。この映画は、保守的な価値観と、芸術的な表現、そして個人の自由なアイデンティティがぶつかり合う様を描いています。
3. 映画レビュー:表現の自由とアイデンティティの探求
この映画『Drag』は、1929年という時代を考えると、非常に興味深いテーマを扱っています。当時の社会において「Drag」という行為は、単なるコメディやエンターテイメントとしてだけでなく、ジェンダーの規範から逸脱する「禁断の」要素を含んでいました。この映画は、保守的な地方社会と、奔放で自由なボードビルの世界を対比させることで、観客に何を問いかけたかったのでしょうか。
主人公デイヴィッドは、新聞社の堅い仕事と、妻の家族が持つ華やかなエンタメの世界の間で葛藤します。この葛藤は、彼自身のアイデンティティ、あるいは彼が社会の中でどう見られたいかという願望を反映しています。アリーの家族が演じる「Drag」は、彼にとって最初は受け入れがたいものでしたが、それは同時に、抑圧された感情や、社会的な期待から解放された自由な表現の象徴でもあったのだと思います。
現代のドラァグ・カルチャー、例えば「RuPaul’s Drag Race」などで活躍するクイーンたち(Bob The Drag Queenのようにブロードウェイに進出するスターもいます)が示すように、Dragは単なる女装ではなく、自己表現、芸術、そしてコミュニティの力を象徴しています。1929年の『Drag』は、その後のドラァグ文化が持つ「社会的な規範への挑戦」という要素の萌芽を、ボードビルという文脈の中で描いたと言えるでしょう。
この映画が描くのは、保守的な価値観に縛られがちな主人公が、妻やその家族を通して、より自由な生き方、そして自己表現の可能性に気づかされるプロセスです。特に、ジェンダーや性の多様性といったテーマに関心がある方には、現代のドラァグ文化がどのようにして生まれたのか、その初期の表現形態を知る上で貴重な資料となるはずです。
また、アイデンティティの葛藤を描く映画として、以前紹介した『Jimpa』や、若者の自由な精神を描いた『Zabriskie Point』もおすすめです。時代は違えど、自分らしく生きることを求める人間の普遍的なテーマが描かれています。
この作品は、約100年前の映画でありながら、現代に通じる「表現」と「アイデンティティ」の重みを教えてくれます。派手なアクションはありませんが、当時の社会の息遣いを感じられる、歴史的にも価値のある一作です。

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