『La Haine』憎しみの連鎖、落ちていくのは誰だ。

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1. 基本情報

公開年:1995年

評価:8.1

ジャンル:Drama

監督:マチュー・カソヴィッツ

出演:ヴァンサン・カッセル、ユベール・クンデ、サイード・タグマウイ

1995年のカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞し、フランスのアカデミー賞とも言われるセザール賞でも作品賞を含む数々の部門を制覇した、まさに「映画史に残る衝撃作」です。全編モノクロで描かれる美しくも殺伐とした映像美は、公開から30年近く経った今でも全く色褪せることがありません。当時のフランス社会が抱えていた、人種差別や警察への反発、そして若者たちの出口のない怒りを剥き出しにした傑作です。

La Haine ポスター

2. あらすじ

物語の舞台は、パリ郊外の低所得者層居住区、通称「バンリュー」。前夜に起きた激しい暴動の余韻が残る中、ユダヤ系のヴィンス、アフリカ系のユベール、アラブ系のサイードという、出自の異なる3人の若者たちの日常を24時間の時間軸で追っていきます。暴動の最中に警察の暴行を受けた友人のアブデルが重体に陥ったことで、彼らの怒りは頂点に達していました。ヴィンスは暴動の混乱の中で警察が紛失した拳銃を偶然拾っており、「アブデルが死んだら、この銃で警官を一人殺す」と誓います。やり場のない焦燥感を抱えながら街を彷徨う彼ら。時計の針が進むごとに、不穏な空気は加速し、取り返しのつかない結末へと向かっていくことになります。

3. 映画レビュー

この映画を観終わった後、私はしばらく深い溜息が止まりませんでした。モノクロの画面から伝わってくるのは、パリの華やかなイメージとは真逆の、コンクリートに囲まれた冷たい現実です。20代の私たちが今観ても、この映画が描く「疎外感」や「社会への不信感」は、驚くほど身近に感じられるはずです。最近のニュースでも、スポーツ界や政治の世界で「憎しみ(Haine)」や差別が蔓延しているという話題をよく目にしますが、この映画が1995年に突きつけた問いは、今この瞬間も解決されないまま私たちの目の前に横たわっています。

特に印象的なのは、劇中で何度も語られる「50階から落ちていく男」の話です。落ちている最中、男は自分を安心させるためにこう言い続けます。「ここまでは順調だ、ここまでは順調だ……」。しかし、大切なのは落下そのものではなく、どう着地するか。この比喩は、崩壊へと向かっていることに気づきながら、見て見ぬふりをする社会そのものを象徴しているようで、胸が締め付けられます。ヴィンスの短気な怒り、プロボクサーを目指すユベールの静かな知性、そして空気を和ませようとするサイードの明るさ。三者三様のキャラクターが、逃れられない運命の渦に巻き込まれていく様は、まさに「Film coup de poing(衝撃的な映画)」というクチコミ通りの迫力です。

社会の不条理や、過去のしがらみに翻弄される若者の姿という点では、以前紹介した『Boy A』や、偏見の渦中で生きる意味を問う『O+』にも通じるものがあります。また、不条理な管理社会に抗う物語が好きな方には『未来世紀ブラジル』もおすすめですが、この『La Haine』はより現実の地続きにある恐怖を突きつけてきます。

「憎しみは憎しみを生む(La haine attire la haine)」。この言葉が持つ重みを、ぜひその目で確かめてみてください。観終わった後、世界の見え方が少しだけ変わってしまう、そんな力を持った一本です。

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