『Nowhere Man』夢破れた男の、哀しくも愛おしい「無能」な生き様。

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1. 基本情報

今回ご紹介するのは、竹中直人さんが監督・主演を務めた1991年の異色作『Nowhere Man』(邦題:無能の人)です。この作品は、失意の元漫画家が、多摩川の河原で拾った石を売るという、奇妙な商売に手を出す物語。そのシュールで哀愁漂う世界観は、公開から30年以上経った今でも根強いファンを持っています。

映画の基本情報

  • 公開年: 1991年
  • 評価: 5.4/10.0
  • ジャンル: ドラマ
  • 監督・主演: 竹中直人

この作品の魅力は、何と言ってもその「無能さ」を徹底的に描き切る潔さです。アートロックビジネスという摩訶不思議な商売に執着する主人公の姿は、観客に強い印象を残します。

映画『Nowhere Man』ポスター画像

2. あらすじ

かつては将来を期待された漫画家だった主人公・スケゾー(竹中直人)。しかし、彼は漫画を描くことをやめ、家族を養うために多摩川の河原で不思議な商売を始めます。それは、川辺で拾った石にタイトルをつけ、「アートロック」として売ることでした。

彼は真剣にビジネスとして成功させようとしますが、当然ながら石は売れません。貧困にあえぐ妻(風吹ジュン)と息子は、スケゾーの無為な日々に対し、怒りや諦め、そして時折の愛情が入り混じった複雑な感情を抱いています。

スケゾーは、どうしてこんなにも「無能」な道を選び、一見何の価値もない石に執着し続けるのか。この物語は、そんなスケゾーと、彼を支え、時に見放す家族の、静かで、しかし強烈な愛憎の日々を描き出します。

3. 映画レビュー:無価値なものに価値を見出す、哀しい男の美学

私はこの映画を観て、まず竹中直人さんの表現力の幅に圧倒されました。コミカルなイメージも強い方ですが、この作品ではひたすら不器用で、情けなくて、でもどこか憎めないスケゾーという男を完璧に演じきっています。

「無能」であることのリアリティ

この映画のテーマは、まさに「無能の美学」です。主人公は失敗し続ける。しかし、彼はその失敗から逃げず、自分にとっての「真実」であるアートロック販売を続けます。この姿は、現代社会で「成功」や「効率」を求められる私たちにとって、ある種の清涼剤のように感じられます。彼は世間的な価値観から完全に逸脱しているからこそ、自由であり、同時に哀しいのです。

特に印象的なのは、彼の妻の存在です。妻は夫の無能さに怒り、時には絶望しますが、それでも完全に離れることはありません。貧困の中でも、家族の間に流れる奇妙な「絆」が、この映画に深みを与えています。この家族の愛憎劇は、過去に紹介した、夢と現実の狭間で苦しむ男の物語『Death of a Salesman』と通じるところがありますね。

多摩川の風景と侘び寂び

映像は全体的に静かで、多摩川の河原や、スケゾーが住む掘立小屋の風景が非常に印象的です。日本の原風景のような場所で、彼はひたすら石を磨き、石を並べ、石を売ろうとします。この行為は、まるで現代における禅問答のようにも見えます。

物語は時にユーモラスでありながら、常に底辺に流れるのは「諦念」です。しかし、この諦念が、逆に「生きていること」の強烈な肯定につながっているように感じました。人生の荒波に立ち向かうというよりは、荒波の中でひたすら漂うことを選んだ男の姿は、また別の視点から人生の困難を描いた『What Doesn’t Kill Us』とは対照的で、深く考えさせられます。

成功や社会的評価とは無縁の場所で、ただひたすらに自分の「無価値」な世界を構築しようとする一人の男の物語。派手な展開はありませんが、観終わった後、心にずっしりと残る、非常に味わい深い作品です。もし、日常の喧騒から離れて、少し哲学的な気分に浸りたいなら、ぜひこの『Nowhere Man』を観てみてください。

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