『Fort Buchanan』夫は戦地、僕は基地。孤独とユーモアが織りなす、風変わりな四季物語。

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あらすじ

物語の舞台は、パリ郊外にある米軍基地「フォート・ブキャナン」。主人公のロジェは、アフリカのジブチへ単身赴任中の夫フランクを待ちながら、養女のロキシーと二人で暮らしています。周りに住むのは、同じく夫の帰りを待つ軍人の妻たちばかり。男性はロジェただ一人という特殊な環境で、彼は「主夫」として、女性たちのコミュニティに溶け込もうとしますが、どこか浮いた存在です。冬、春、夏、秋と移り変わる季節の中で、ロジェの孤独、退屈、そして抑えきれない欲望が、シュールでコミカルな日常風景と共に描かれていきます。

Fort Buchanan ポスター

映画レビュー

本作『Fort Buchanan』は、一言で表すなら「掴みどころのない、風変わりな魅力に満ちた作品」です。明確な起承転結があるわけではなく、主人公ロジェの日常を淡々と、しかしどこか奇妙な視点で切り取っていきます。

まず面白いのが、その設定。軍事基地という閉鎖的で規律正しい空間に、ゲイの男性主夫という異質な存在が放り込まれることで、独特の化学反応が生まれています。ロジェは女性たちの井戸端会議に参加したり、子供の世話をしたりと、いわゆる「奥様」的な役割をこなしますが、その心は孤独と性的な欲求で満たされています。その内面が、時に突飛な行動として現れる様子は、滑稽でありながらもどこか切実さを感じさせます。

作風は、エリック・ロメール作品を彷彿とさせるような、長回しと自然な会話劇が中心ですが、そこに突如としてシュールなギャグや不穏な空気が差し込まれるのが本作のユニークな点です。登場人物たちの会話はどこか噛み合わず、そのズレが独特のユーモアを生み出しています。16mmフィルムで撮影されたという映像も、ざらついた質感と美しい色彩で、ノスタルジックでありながらも生々しい雰囲気を醸し出しており、作品の世界観に深く引き込まれます。

万人受けするタイプの映画ではないかもしれませんが、オフビートなコメディや、雰囲気を味わうアート系映画が好きな方には間違いなく刺さる一本です。多様な愛や家族の形を、説教臭さなく、軽やかでユニークな視点から描いた快作と言えるでしょう。

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